富士通インターコネクトテクノロジーズ株式会社

世界でもトップクラスの技術力を守り、育てることは、日本のモノづくり産業を守ることにも繋がるはずだ。

高度なプリント基板の専門メーカーである富士通インターコネクトテクノロジーズ(以下・FICT)を富士通グループから自立させ、独立企業として再出発させるスタンドアロンプロジェクト。事業的にも組織構造的にも難易度が高いこの案件を、どのように投資実行まで推し進めたのか。その裏側を、プロジェクトリーダーの早川と、投資スキーム設計および交渉実務を主に担当した正村の2人が語ります。
(2020年06月インタビュー記事を元に編集)

この記事のポイント

  • 難易度の高いプロジェクトへの挑戦。
  • 優秀な従業員の方たちとともに収益性を改善。
  • 日本のモノづくり産業を支えていく。

基本情報

  • 投資時期:2020年1月
  • 業種:プリント基板の開発、製造、販売
  • 企業タイプ:非上場企業
  • 背景:旧親会社である富士通の事業再編

難易度の高いプロジェクト。だからこそ、私たちがやる。

早川:富士通株式会社のプリント基板事業からスタートし、2002年に分社・独立したFICT。富士通グループの事業再編に伴い傘下から離れることが決定し、アドバンテッジパートナーズ(以下・AP)がそのサポートをすることになりました。投資を実行したのは2020年1月、プロジェクトが始まったのは1年以上前からで、我々にお声がけいただいたのは非常に難易度の高い案件であるからだと考えています。


正村:難易度の高さにはいくつか要因がありますが、1つはモノづくり自体が複雑であること。通常のメーカーではどちらかしか扱わない「組み立て系」と「化学反応系」の両方の要素が絡んでいます。同じモノづくりと言っても専門性がまったく異なるので、八百屋と魚屋を同時に営むようなイメージになります。デューデリジェンスにも、投資後後の経営計画立案にも、深い事業理解が欠かせません。私はバックグラウンドが理系ですし、早川も他メーカーでの経験がありましたので、なんとか事業構造を把握することができました。そしてもう1つは、元々兄弟会社であったベトナムのFujitsu Computer Products of Vietnam(以下・FCV)を、完全子会社化するという課題。1社の独立だけでも複雑なことですが、両社の指揮命令系統や責任範囲を明確にしながら進めていくプロセスは、非常に遣り甲斐があると日々実感しています。


早川:親会社からの債務もありましたので、全関係者にとって受け入れ可能な財務的工夫を凝らした投資スキームもご提案しました。将来の姿を描く中で「ここまで利益を伸ばせそうだ」と見えてくれば、親会社への提案にも前向きな要素として反映できますので様々な議論を常に同時進行させていったイメージです。また、大企業グループから離れることになるので、これまでは親会社が一括で担っていた人事や総務、経理、ITといった間接部門を立ち上げる必要もあります。そのためにスタンドアロンプロジェクトをそれぞれの機能毎に複数立ち上げて頂きました。ここに関しては、私も正村も他社で経験していたこともあり、取り組みの順序なども提案させていただきました。こうした知見を持っていたことも、APが選ばれた理由の1つかもしれません。

スパコン、自動運転、5G。未来を変えるテクノロジーを支えていく。

早川:APとして投資を決めたのは、このビジネスに大きな可能性を感じたからです。プリント基板はコモディティ化していると言われる業界で、見方によっては「なんでそんな苦労するところにいくんだ」と思う人もいるかもしれません。たしかに、顧客側もサプライヤー側も、集約されて主要なプレーヤーしか残っていないセグメントが多い中で、プリント基板はまだまだ競合企業が多く、価格競争が激しいことは事実です。ただ、我々が注目したのは、高い技術力と、それに裏打ちされた確固たる顧客基盤。FICTは、スーパーコンピューター「富岳」や5Gの通信基地局向けの基板を製作しています。こうした顧客層に部品を提供できるメーカーは、世界を見渡してもほんの数社しかありません。5Gはこれから必ず通信インフラのメインストリームになっていきます。伸びる市場で替えの利かない部材を提供していることが分かり、投資実行を決めました。


正村:電子部品関連の業界は周期性が非常に大きいんですね。大フィーバーする時期もあれば、投資競争が行き過ぎて焼き畑状態になる時期もある。直近の見込みで言うと、車載関連の製品も作っているのですが、自動車の販売台数と連動するのでここは落ちるかもしれません。ただその落ち込み分を考慮しても、5Gや半導体関連で十分に補っていけるという見通しです。各企業でテレワークの導入も進んでおり、現在のネットワークではどうしてもフラストレーションがたまってしまうでしょうから、通信インフラ向け、特に5G向けのプリント基板ニーズはしばらく活発な状態が続くでしょう。また、半導体の高度化も進んでいく。投資してからも毎週実施しているミーティング内でも、これまでのところはほぼ予想通りの数字で推移していると報告を頂いています。


早川:ミーティングをしていて驚いたのが、会社の皆様の議論の質が非常に高いこと。さすがという印象です。技術セッションや戦略セッションで拝見する資料の内容は、想像以上にハイレベルです。ですので、我々は方向感さへ合えばあとは既存の枠組みを取り払うことで自由に活動していただく方が良さそうだと考えています。


正村:会社の皆さんとであれば、これまで発揮できていなかった様々な可能性を具現化できるだろうと確信しています。

地域の雇用と、日本のモノづくり産業を守るために。

早川:一方で現在の大きな課題は、各製品の収益性にかなりばらつきがあったことです。5G向けのような華々しい製品もありながら、作れば作るほど赤字になるような製品もあります。これまでは大企業グループの一製造部門のような立ち位置だったので仕方がない面があるのだと想像します。利益率が低かったり不得意な領域だったりしても、決められたモノを作ることに徹してきたのではないかと思います。これら、会社が運営されてきた背景も認識しながら、独立企業として組織力を上げる取り組みを優先して進めています。


正村:製品別の収益性を分析し、原価管理を徹底する。次にプライシングの方針を明確にする。また、優良顧客とその先にいる顧客を見定めていく。その上で、独立企業として生産性を高め、投資採算の考え方を厳格にして、明確に決められるようになればと考えています。売り上げを大きく伸ばすのではなく、利益率の高い製品に徐々に切り替え、FICTとFCVの役割分担を高度化することで、企業としての収益性を高めていくことが狙いです。先ほどもお話しした通り非常に優秀な方々ですので、自律的な意思決定のメカニズムをスムーズに浸透させていくことができれば、必ず業績を伸ばすことはできるでしょう。


早川:今回のプロジェクトは、日本のモノづくり全体にとっても非常に意義のある取り組みだと考えています。今、国内メーカーの多くはハードウェアから撤退してソフトウェアに軸足を移しています。5Gのマーケットを見渡してみても、最終製品を提供しているのはノキア、Huawei、エリクソンと、そこに日本企業の名前はありません。ただ、こうしたベンダーに重要不可欠な部品を納入している国内メーカーがあるということは、大きな意味を持つはずです。世界中で問題になっている新型コロナウィルスなどウィルスの遺伝子解析や新薬開発にはスパコンが欠かせませんし、実は当社は人工心肺装置のプリント基板も作っています。社会的意義の高い企業を支援できることに誇りを感じています。


正村:付け加えるなら、FICTは本社のある長野県で大きなプレゼンスを発揮している企業です。地域の工場、製造拠点で働く皆様、さらに言うと周辺地域には協力会社様も多くありますから、地域の雇用を守るという意味でも重要だと思います。エリアの皆さんと協力してエコシステムを維持・発展させながら、世界でも最先端の部品を供給していく。簡単ではありませんが、大きなやりがいのあるプロジェクトです。